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【活用 具注暦No.4】具注暦上段の内容を解説

2018.01.22

 日毎の記事の解説に入ります。具注暦では一日々々の記事を一行三段に別けて表記しました。上段、中段、下段ではそれぞれ記載される内容の性格が異なりました。では上段にはどのような内容が書かれたのでしょう。​室町時代の貞治五年(南朝正平4)11月18日の上段記事を例示して解説します。

具注暦の日毎記事の形式概説

 

 具注暦を巻頭から順にみていくと歳首の後、1月の月建記事が入り、その後「1日、2日、3日~」と、1月の日毎の記事が続いています。
 具注暦の日毎の記事は一日につき大きく上段・中段・下段の三段に別け、この三段では、それぞれ内容の種類が異なります。

具注暦の上段

 

 

※本文中での間違いや、ご質問などございましたら、コンタクトページ掲載のメールアドレスかTwitterアカウント(@simadu1123)までお寄せ下さい。

 参考文献

山下克明『平安貴族社会と具注暦』臨川書店 2017

大谷光男など『日本暦日総覧 中世前期1』本の友社 1992

湯浅吉美「日本古暦の様式について」『埼玉学園大学紀要〈人間学篇(13) 41-54〉』2013

以下、上段記事の内容を各説します。

①.日付


 その日の日付です。20日は廿日、30日は丗日と漢字表記されます。

②日の干支

  六十干支と言えば現代では年に対して配当されるものが周知されていますが、日に対しても干支は配当され、紀日法としての役割を果たしています。例えば、『日本書紀』は基本的に干支で月日を表記してありますし、「七月庚寅」のような形で「月+干支」で書面の記入日を表記する方法は現代に至るまで活用されています。日の干支は一日目の「甲子」から始まって順番通りに配当され、六十日目の「葵亥」で一週します。
 なお、十干の「乙」の字は「乚」と表記されています。

③納音

  納音(なっちん)は「【No.1】暦序を読んでみよう」でも解説した通り、六十干支と古代の音韻理論などを木・火・土・金・水の五行に対照させたもので、『暦林問答集』には「納音は、人の本命所属の音也という。すなわち商・角・徴・羽の宮也。納音は其の音の調を取り、姓所属を知る也」と書かれています。なお、六十干支との対照はWikipediaの納音の項に書かれています。これも年に配当されるものが、暦日に対しても同じ干支との対照法で配当されます。
蛇足ですが、インターネットで「納音」と検索すると占い関係のページばかりがヒットしてしまいますので、簡単な解説のみならば、古文書ネットの記事をお薦めします。

④十二直

 十二直(じゅうにちょく)は「建(たつ)・除(のぞく)・満(みつ)・平(たいら)・定(さだん)・執(とる)・破(やぶる)・危(あやう)・成(なる)・収(おさん)・開(ひらく)・閉(とず)」の十二が一日一日に割り当てられる、日の吉凶を表す暦注です。現代ではあまり馴染みがありませんが、近代までは身近なものだったようです。
 古代中国で「北斗七星の柄が北極星を中心にして回転する方向を十二支に当てはめる」という構想で編み出された暦注で、配当は節月と干支の対照で定まります。

 十二直は多く活用されたがために何通りもの解釈が生じ、明確な解釈は定まっていません。が、代表的なものとして以下では室町時代に賀茂在方が著した『暦林問答集』の十二直の解説を引用します。

『貞和5年具注暦』11月13〜18日記事。(『師守記/巻31』国立国会図書館デジタルコレクション)

 ・まず上段には「日付関係」が記されます。構成内容は「1.日付、2.日干支、3.納音、4.十二直」がデフォルトです。
 ・中段は「季節関係など」が記されます。構成内容は「1.二十四節気、2.七十二候、3.六十卦、4.月齢(望・上弦・下弦)など」です。日本では平安初期に、加えて「除手足甲(てあしのつめをのぞく)や、沐浴日、神吉日」などが記されることになります。
 ・下段は「吉凶関係」が記されます。前回の暦例の記事で表示した吉日や凶日が記されます。「天恩・天赦・歳徳・凶会日などなど」です。
 更に加えて欄外に七曜、二十七宿、上段脇に朱書暦注などが記入されますが、本記事では省略します。

『貞和5年具注暦』5月11日記事。(師守記)

  まず具注暦の上段記事を例示します。右に表示しているのは師守記の料紙として伝世している南北朝時代の貞治五年(南朝正平4)11月18日の上段記事です。
 表に表示してあるとおり、「日付、日の干支、納音、十二直」が書かれています。

『暦林問答集』の十二直解説

 1.建 「建、万物をよく生む。故に建という。尚書暦曰く、安社稷・冠帯・立柱・納財・及び奴婢・出行、吉
    なり」

 


 2.除 「万物折衝し、百凶を除き去る。ゆえに除という。書に云わく、療病・祠祀・合薬・針刺、吉。」
 


 3.満 「凶を掩覆し咎め、満万物を蓋す。ゆえに満という。書に云わく、造屋舎・移徙・嫁娶・内財及び奴
     婢・裁衣・出行・造車。塗竃、吉。」

 


 4.平 「書に云わく、造屋舎・移徙・嫁娶・内財及び奴婢・裁衣、吉。」
 


 5.定 「諸客をよく定む。ゆえに定という。書に云わく、造屋舎・移徙・嫁娶・安宅・内財及び奴婢・裁衣・
     買馬牛・起土・祠祀、吉。」

 


 6.執 「万物をよく執り断つ。ゆえに執という。書に云わく、張設羅網・射猟・收捕盗賊、吉。」    
 


 7.破 「書に云わく、收鬼・捕邪・治病・擧軍攻撃所向、吉なり。」
 


 8.危 「高く昇るべからず。ゆえに危という。書に云わく、張設羅網・漁捕・射猟・伐樹木、吉。」
 


 9.成 「なす事必ず成る。ゆえに成という。書に云わく、祠祀・入宮・造屋舎・移徙・嫁娶・出行・裁衣、
     吉。」

 


10.収 「万物を収斂するという。またの名を天倉。ゆえに収という。書に云わく、造屋舎・入室・入官・移
     徙・嫁娶・治壁垣・張設羅網・捕縛・田猟・下種。種樹、吉」

 


11.開 「天の使は險を前後に開く。ゆえに開という。書に曰く、造屋舎、起土、移徙、嫁娶、内財及び奴婢、
     立門戸、祠祀、出行、入學、加冠、拝官、治病、吉。」

 


12.閉 「閉塞不通、ゆえに閉という。もっとも禁邪、悪の日なり。修堤防、塞穴、吉。」

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