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【活用 具注暦No.3】暦例を読んでみよう。

2018.01.11

 具注暦において暦序の次に出てくるのが「暦例」の部分です。この部分は日毎の記事に書かれている吉日・凶日の名称を箇条書きに挙げ、その用例を解説している部分です。例えば「往亡の日は遠行してはならない。また家に帰ることや、引っ越し、嫁取りは大凶である」というような内容です。今回はその翻刻と訓読を掲載します。

暦例とは?

 

 No.1で取り上げた「暦序」の続きの部分にあたるのが「暦例」です。暦例は具注暦の、日ごとに書かれている吉凶日の名称を挙げ、その説明を箇条書きにしたものです。ゆえに毎年同じ内容で変化はありません。

 この「暦例」は現存最古期の紙本具注暦である『天平一八歳具注暦』にも確認できるものです。しかし中世以降はあまりにも長大な暦例は、無用の長物と判断されたのか省略されました。そのため鎌倉時代ごろから後の具注暦には「暦例」は存在しません。

 ちなみに「暦序」と「暦例」は混同されて使用されている言葉ですが、湯浅吉美「日本の古暦の様式について」(『埼玉学園大学紀要〈人間学篇(13) 41-54〉』2013)によれば、内題から月の大小まで(No.1で取り上げた部分)を「暦序」と称し、各暦注の凡例を箇条書きにする部分(本稿で取り上げる部分)を「暦例」と称しているようです。さらにこの「暦序」「暦例」を両方を合わせて「歳首」と呼ぶとしています。ただし現在のところ学術論文でも各部名称の基準は曖昧で不定であり、あくまでこの基準も一説の域のようです。

 

暦例の翻刻と訓読

 

 

※本文中での間違いや、ご質問などございましたら、コンタクトページ掲載のメールアドレスかTwitterアカウント(@simadu1123)までお寄せ下さい。

 参考文献

山下克明『平安貴族社会と具注暦』臨川書店 2017

大谷光男など『日本暦日総覧 中世前期1』本の友社 1992

湯浅吉美「日本古暦の様式について」『埼玉学園大学紀要〈人間学篇(13) 41-54〉』2013

 さて本記事ですが、各吉凶日の解説は別記事で行おうと思いますので、ここでは敢えて現代語による解説はせず、本文の翻刻と書き下しのみの掲載とします。解説は後続記事をお待ち下さい。

①歳徳 月徳 天恩 天赦

 右件上吉庶事皆用之大吉其修宮室圷 城墎修堤防井竈門戸起土修宅及碓磑厠等 雖非正修造之月因有頽懐事須修営 幷用之吉亦歳徳合月徳合之日可用之

「右の件、上吉。庶事皆これを用いて大吉。その宮室を修し、城郭を圷し、堤防、井、竃、門戸をを修し、起土し、宅および碓磑厠等を修せ。正に修造の月に非ずといえども、頽懐の事有るにより、すべからく修営せよ、幷びにこれを用いて吉。また歳徳合・月徳合の日、これを用うるべし。」

②歳位 歳前 歳対 歳後 母倉 満 平 定 成 収 開 

 右件次吉亦可用之與軽凶 及凶会幷者不可用之 其歳位乗輿用之吉歳前公候已上用之吉歳対歳後庶人已上通用之

 

「右の件、次吉。またこれを用うるべし。軽凶及び凶会と并べばこれを用うるべからず。その歳位、乗輿これを用いて吉。歳前は公候以上はこれを用いて吉。歳対は庶人已上通してこれを用いて吉。」(※乗輿は天子(天皇)のこと。公候は公卿のこと。)

③廿四気 朔 望 弦 晦 建 除 執 破 危 閉

 右件軽凶亦不可用之與上吉幷者用之 無妨其晦日唯利用除服・解除吉

「右の件軽凶。またこれを用うるべからず。上吉と并べばこれを用いて妨げ無し。その晦日はただ除服・解除に利用するは吉」

④単陽 単陰 純陽 純陰 陽錯 陰錯 行佷 了戻  陰陽倶錯 陰道衝陽 陽破 陰衝 絶陽 絶陰 歳博 逐陣 陰位 三陰 狐辰 陰陽衝破 陰陽衝撃 陰陽交破 

 右件凶会不可用之雖與上吉幷亦不可用之 

 

「右の件凶会用うるべからず。上吉と幷ぶと雖も、またこれを用うるべからず」

⑤往亡 

 其日不可遠行拝官移徒呼女娶婦買家祠祀大凶

「その日、遠行すべからず。拝官、移徙、呼女、娶婦、買家、祠祀は大凶」

⑥帰忌 

 其日不可遠行・帰家・移徒・呼女・娶婦大凶 

「その日、遠行すべからず。帰家、移徙、呼女、娶婦は大凶」

⑦血忌 

 其日不可行刑戮及針刺・出血凶 

「その日、刑戮及び針刺を行うべからず。出血は凶」

⑧月殺

 其所在及其日不可動土及寄客與上吉幷者用之無妨

「その所在およびその日、動土および寄客するべからず。上吉と并べば妨げ無し」

⑨九坎

 其日不可出行及種蒔覆屋

「その日出行および種蒔、覆屋すべからず。」

⑩厭及厭對

 其厭日不可出行利以鎮禳其厭對日不可為吉事及種蒔

「その厭日、出行すべからず。利を以て鎮禳。その厭対日吉事及び種蒔をなすべからず。」

⑪人神

 其所在不可針灸

「その所在に針灸すべからず。

 

⑫日遊

 其所在不可動土掃舎及産婦須避之

「その所在、土を動かすべからず。    掃舎及び産婦はこれをすべからく避けよ。」

⑬重 複

 其日不可為凶事必重必複宜用吉事

「その日、凶事をなすべからず。必ず重し、必ず復す。宜しく吉事に用いるべし。」

⑭三伏

 其日金気伏蔵之日也不可療病及遠行

「その日金気伏蔵の日なり。療養及び遠行すべからず。」

⑮社

 其日命民祭土之日也

「その日、命民祭土の日なり。」

 

⑯臘

其日所謂先祖五祀之日也不可療病及嫁娶

「その日、いわゆる先祖五祠の日なり。療養及び嫁娶すべからず。」

 

⑰無翹

其日不可嫁娶妨姑凶

「その日、嫁娶、妨姑すべからず。凶」

 

⑱没 滅

其日暦余分陰陽不足非正日故不可用之

「その日、暦余分陰陽不足、正日に非ざるゆえ用いるべからず。」

 

⑲虧蝕

其日日月同道相衝掩映之会故不可用之

「その日、日月同道、相衝す。掩映の会ゆえ用いるべからず。」

 

⑳三鏡

其所在葬送・往来乗之大吉

「その所在、葬送、往来乗これ大吉」

『寛弘七年具注暦』(御堂関白記2 自筆本自寛弘6年至寛仁4年 思文閣 1984)

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